2013年3月15日金曜日

Intel,Creativeが持つ3Dグラフィックス技術やライセンスの使用権と開発チームを入手。モバイルCPUのグラ

 「Sound Blaster」ブランドで知られるCreative Technology(以下,Creative)は,シンガポール時間2012年11月19日,同社子会社であるZiiLABSが持つ技術や特許の使用権をIntelにライセンス提供し,加えて,英国に本拠を置くZiiLABSの開発チームをIntelに譲渡すると発表した。
 これにより,CreativeはIntelから5000万ドル(約40?000万円)を得るとのことだ。

 ……頭の上に疑問符が2つ3つ浮かんだ人がいるのではないかと思う。「そもそもZiiLABSって何?」という読者も多いと思われるが,ZiiLabはかつて「3Dlabs」という名で3Dグラフィックスアクセラレータ(≒グラフィックスカード)を手がけていた企業である。
 最盛期にはOpenGLの策定にも関与するような,3Dグラフィックス市場における有力なプレイヤーとして知られ,とくにプロフェッショナル向けの製品を得意としていた。一般PCユーザー向けにも,一時期「Permedia」(パーメディア)というブランドでグラフィックスチップを展開していたので,古くからのPCゲーマーなら記憶に残っているという人もいるだろう。

 3Dlabsは2002年のCreativeによる買収後,2009年には社名をZiiLABSと変え,開発リソースをモバイル向けプロセッサに集中させる決定を行った。以後,3DLabs時代からの資産に基づく独自のGPUコアをARMアーキテクチャのCPUコアと組み合わせたモバイル向けSoC「ZMS」の開発を続けながら現在に至っている。

 ZMSプロセッサの実績はあまりぱっとせず,いまのところは,Creative製品を除くと,ごくごく一部のOEMメーカーに採用されている程度だが,多数のコアを集積させる独自のGPU技術「StemCell Computing Array」(以下,StemCell)は業界内で一定の評価を得ている。また,2012年春に発表されたSoC「ZMS-40」では,実際に96コアのStemCellアレイをCortex-A9×4と統合した“100コアプロセッサ”を実現。それがCreativeのタブレット製品に載るなど,開発能力は健在だ。

 今回の発表で重要なのは,そんなZiiLABSの技術と開発リソースをIntelが利用できるようになる点である。
 これまでIntelは,Atomベースのモバイル向けプロセッサ「Clover Trail」(クローバートレイル,開発コードネーム)などにおいて,英Imagination Technologiesの「PowerVR Graphics」コアIPを採用してきたが,将来の製品では,ZiiLABSが持つStemCell技術をベースにしたものが使われることになるかもしれない。

 なおCreativeはリリース文のなかで,「28nmプロセス世代以降の次世代メディアプロセッサはさらに複雑になり,開発にコストがかかるようになるだろう。我々は顧客やパートナーのために,継続的な製品の革新を推進すべく,新しい方法を見つける必要がある」と述べている。「ZiiLABSを保有し続けることによる将来へのリスク」を軽減するとともに,中核となるサウンド&マルチメディア関連事業へ集中できるようになるメリットがあるというわけだ。
 Creativeは今後もZiiLABSを子会社として持ち続け,特許を継続的に保有するほか,「ZMS-40」などを搭載する製品も開発していくとも述べているが,開発チームを譲渡する以上,将来のZMSプロセッサがZiiLABSから登場する可能性は限りなく低いだろう。

 いずれにせよ,Intelがモバイル向けのGPU技術を手に入れたというのは大変興味深い。現時点においては地味な譲渡契約といった印象だが,将来のIntel製品,とくにAtomで代表されるモバイル製品には少なからず影響を与えるものと思われ,今後の展開が楽しみである。

 ゲーム開発向けの統合型サウンドミドルウェア「Wwise」(ワイズ)の加Audiokinetic(オーディオキネティック)が,日本法人を設立し,日本市場へ上陸してきた。

Wwiseのメインウインドウ。一般的なDAW(Digital Audio Workstation,コンピュータベースの統合音楽制作環境)に近い
Wwiseが対応するプラットフォーム。現状で13ある
 ……アタマの上に疑問符が2つ3つ浮かんだ人も多いのではないかと思われるが,Wwiseというのは,ゲームのサウンド周りを管理するミドルウェアだけでなく,オーサリング(≒コンテンツ開発)ツール,デベロッパが別途用意したゲームエンジンと連動する開発&デバッグ環境までもがパッケージ化されたものだ。しかもPCやMac,主要ゲーム機のほか,AndroidやiOS,Windows RT,Windows Phone 8といったモバイルOSもサポートするという守備範囲の広さまで併せ持つという,なかなか強烈な開発環境である。少なくとも筆者の知る限り,ここまで統合され,ここまで対応環境の多い商用サウンドミドルウェアというのは,Wwiseを置いてほかにない(※かなり近い存在としてCRI?ミドルウェアの「CRI ADX2」があるので,唯一無二の存在というわけではないが)。

 ちなみに,Wwiseで何ができるのかについては,で,榎本 涼氏がサウンドデザイナーの立場から解説している。興味のある人はぜひそちらもチェックしてほしい。そのときAudiokineticは,2012年中に日本オフィスを開設すると予告して話題を集めていたが,当初の計画より若干遅れて,今回の日本法人設立に至ったというわけだ。

 Audiokinetic自体が2000年にモントリオール市で設立された若い会社であり,Wwise自体も第1版がリリースされたのは2006年ということなので,知らない人が多いというのも納得だが,2012年には著名シリーズの最新作が相次いでWwiseをサウンド関連のミドルウェアとして採用していたりもした。そのため,ゲームの起動時,意識することなくWwiseのロゴを視界に入れていたという人も少なくないだろう。

最近リリースされた,Wwise採用タイトル。「」や「Assassin's Creed III」( / / / )「」などといったビッグネームが並ぶ

Martin H. Klein氏(Founder, Presidend & CEO, Audiokinetic)
 同社の創設者でもある社長兼CEO,Martin H. Klein(マーティン H. クライン)氏は,都内のカナダ大使館で開催された日本法人設立の発表会で,同社の強みが,単にWwiseという開発環境を提供しているのではなく,DQ10 RMT,その安定性と性能,そしてカスタマーサポートに力を入れてきたことにあるとしていた。
 Wwiseそのものの動作安定性と性能を高めるだけでなく,プラットフォームSDKの用意や,主要プラグインのサポートも積極的に行い,顧客の要望に応じたカスタム版を提供したり,顧客独自のゲームエンジンに統合したりといったカスタム開発を行ったりした結果,「Wwiseを使うタイトルはAAA級(≒全世界市場がターゲットとなる大作級)が300を超えた。すでにAudiokineticはサウンドミドルウェアのリーダーとして評価を受けるに至っている」(Klein氏)とのことだ。

Wwiseの対応ゲームエンジン。「Unreal Engine 3&4」「Unity」のほかに,シリコンスタジオの「OROCHI 3」をサポートしているあたりからも,日本市場への本気度が窺える
 そんなAudiokineticが,本拠地に次ぐ拠点として日本(柧─蜻xんだのはなぜか。Klein氏は「ビデオゲームを生んだ2つの国の1つであり,多くのデベロッパが拠点を置いているため」とした。
 「(Wwiseの第1版をリリースした)2006年くらいからマメに来日し,日本のデベロッパとは関係を深めてきた。そのなかですぐに気づいたのは,『サポートを提供しなければ使ってもらえない』ことだ」と述べたKlein氏は,日本のデベロッパにWwiseを使ってもらうため,2500ページ以上ものドキュメントと40ものトレーニングビデオ,Webサイト,サウンドデザイナーやサウンドプログラマー用のトレーニングツールなどを日本語で提供すべく,高い精度での日本語翻訳を実行に移し,「(おおむね)達成できた」と胸を張る。氏によれば,たとえばドキュメントは4分の3が完全に翻訳を完了し,今年6月末にも,当初の計画が達成されるとのことだ。

 「ゲームデベロッパにとって,新しい技術を採用することはリスクがある。だから私達は,カスタマーサポートと安定性,性能の3つにフォーカスしてきた。私達のゴールはユーザーのニーズに応えるということ。Audiokineticが日本のデベロッパをサポートを提供をしていくうえで,今回の日本法人設立は大きなマイルストーンとなる。日本のデベロッパとの緊密な連携ができることは,私達の将来に向けて大きなできごとだ」(Klein氏)

Jacques Deveau氏(VP Sales & Business, Audiokinetic)
Deveau氏が挙げた「Wwiseのメリット」
 なお,発表会で製品面の話を担当したJacques Deveau(ジャック?ドゥボー)氏は,Wwiseのメリットを以下のとおり挙げている。一部,Klein氏の発言と被る部分もあるが,まとめておこう。


     このなかでもとくにDeveau氏が強調していたのは,「これまでのゲームサウンド制作は,オーサリングにシミュレーション,インテグレーション,ミキシング,プロファイリングを順に行わねばならなかったため,サウンドプログラマーの負荷が高かったが,Wwiseではプログラマーに依存しない」という点である。
     「プロファイリング情報を,ゲームと接続した状態でやりとりできる。パフォーマンスをモニタリングできる(から,極端にCPU負荷やメモリ負荷が大きいようなシーンでは音の数を減らすといった処理を,DQ10 RMT,サウンドデザイナーの側で処理できるという)のは,大きい」(Deveau氏)。



    プラチナゲームズが導入事例を紹介

    国内での勝算は?


    実際にメタルギア ライジング リベンジェンスを使いながらの導入事例解説
     発表会に続けて,ゲーム業界関係者向けイベントもカナダ大使館で開催された。そこにはプラチナゲームズでメタルギア ライジング リベンジェンスのサウンド開発を担当したリードサウンドデザイナーの中越健太郎氏と音楽ディレクターの田中直人氏が招かれ,開発者向けに導入事例を語っていたのだが,今回は事情により,スライドを紹介するに留めたい。


     また,開発者向けイベントでは,4月の公開が予定されている最新版「Wwise 2013.1」の情報も公開された。それによると,以下に挙げるような新機能などが追加されるとのことだ。


      Wwise 2013.1の代表的な新要素。このほかにも複数の新要素が追加されるとのこと

       で榎本 涼氏が指摘しているように,国内の大手デベロッパ兼パブリッシャだと,たいていの場合,自社開発のサウンド開発環境を持っている。それを捨て,Wwiseを採用してもらうというのは相当に難しいのではないかということでKlein氏に聞いてみたところ,独自の開発環境を持っているからといって,それがWwiseを導入しない理由にはならない,という回答が返ってきた。いわく「AAA級のタイトルにしかWwiseは使えない(ほどコストが高い)というわけではない」「大手が,実験的なプロジェクトに,自社開発のツールではなくWwiseの利用を検討するというのはあり得るし,もちろん,中小のデベロッパがモバイル端末向けのゲームでWwiseを使うというのもある。あらゆるゲーム開発に利用できるのがWwiseの強みだ」とのことである。
       確かに,入館時の受付で視界に入ってしまった来場者名簿には,「まったく疑いなく自社開発のサウンド開発環境を持っている」メーカーの名前が見て取れた。日本のゲームデベロッパが採用する可能性について,Audiokineticとしては相当に自信があるのだろう。

       Klein氏は筆者の賳枻藢潳筏啤妇咛宓膜适饷挨庋预à胜い笮·丹蓼钉蓼嗜毡兢违钎佶恁氓绚琖wiseを評価中だったり,実際に導入していたりしている」とも述べていたので,2013年以降,ゲームの起動時にWwiseのロゴマークを見る機会は増えていくのかもしれない。


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