。 そのような世界では,一日中,研究室に篭って怪しげな研究を続ける博士などは当然存在しない。本作で科学技術を扱うのは,ピアピア技術部の面々だ。彼らは,自分達で撮った動画をアップして喜び,チャットに女性が入ってくれば大はしゃぎする,ごく普通の人々である。彼らを動かすものは地位や名誉でもなければ,人類の発展に対する使命感でもない。本作のある登場人物は言う。 「こんな面白いもの、拡散しなくてどうしますか!」 また,明らかに某ドワンゴの代表取締役をモデルにしたとしか思えない,山上氏はこのようなことを言う。 「ピアピア動画で作品を発表するユーザーのほとんどは、金銭収入のためにそうしているのではない。人と出会い、自らの作品やスキルを見てもらい、承認されたいから来ているのである」 そこにあるのは,善悪や社会的価値すらも乗り越えた,「ただ面白いことがしたい」「みんなと一緒に楽しみたい」という根源的な欲望である。そのような欲望が人間にある限り,プライドオブソウル RMT,「才能の無駄遣い」とも言うべき動画は大量に作られ続けるし,本作のようなSF作品も書かれ続けるのだろう。 ちなみに表題作である「南極点のピアピア動画」に登場する歌は,ファイターズクラブ RMT,雑誌掲載時には小説の中だけにしか存在しなかったが,その後,が作られているので,本書を読み終えた人はそちらもチェックしてみよう。 ■ボーカロイドじゃなくても分かる,野尻抱介作品 『太陽の簒奪者』(著者:野尻抱介/ハヤカワ文庫JA) 本作の作者である“尻P”は,ニコニコ動画で初音ミクの調教をしたり,を撮ったりしているプロデューサーである。本作に登場する「ピアピア技術部」の元ネタとなった,「ニコニコ技術部」に所属しており,自作の面白ガジェットを使った動画も数多い。 また,ニコニコ動画以外では,小説家?野尻抱介として活動しており,1992年にPBM(プレイバイメールゲーム)「クレギオン」のノベライズ『クレギオン ヴェイスの盲点』(富士見ファンタジア文庫)でデビュー。宇宙飛行士を目指す女子高生を主人公にした『ロケットガール』や,軌道カタパルト建造に邁進する天才女子高生を描いた『ふわふわの泉』など,宇宙を題材にした作品を得意とする。 ライトノベル以外では,早川書房から刊行された『太陽の簒奪者』で,日本SF界のビッグタイトル星雲賞を受賞し,さらに「ベストSF2002」の国内作品で1位に選ばれる快挙を成し遂げている。それ以外の作品でも星雲賞を5回受賞しており,現在の宇宙SFを語るうえで欠かせない存在だ
関連トピック記事:
0 件のコメント:
コメントを投稿